【陰山英男先生に聞く】日本の教育は進んでいる?遅れている?世界水準でみた日本の教育

【陰山英男先生に聞く】日本の教育は進んでいる?遅れている?世界水準でみた日本の教育

2020年に向けて大学入試改革が進んでいる。

人生の大きな分岐点ともなる大学入試のシステムが変化するということは、決して小さな出来事ではない。この大きな改変が起こる背景には、世界水準から見た日本の教育の現状が関係していると陰山氏は語る。

ショックから立ち直った日本の教育と学力

ここ十数年における、日本の教育環境の変遷をたどってみよう。

2003年の国際学力調査「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」では、日本の順位が大きく落ち込み、いわゆる「PISAショック」を引き起こした。ここでゆとり教育の是非が取りざたされ、学校教育は変化せざるを得なくなった。結果、学校の授業内容は高度化し、全国学力テストの実施など、日本はさまざまな学力向上手段を模索することになる。

その結果、2015年の国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)における小学校の算数における順位は5位、理科においては3位と、もう日本の教育は遅れているとは言われない状況まで回復した。

参照:国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2015)のポイント

教育と経済を取り巻く数字を読み解くと?

このように、順調な上昇傾向に戻りつつある時期に、なぜ大学入試の改革が行われようとしているのだろうか?

「抜本的な改革の背景には、世界の中での教育面での出遅れ感、あるいは日本の経済的成長ポテンシャルの後退があると考えられます」と答える隂山氏。

「諸外国の教育と経済の状況を見て、日本の教育が遅れているとみんなが肌身に感じるようになってきたことも要因かもしれません。しかし、これは半分正しいけれども、半分は間違っています」と続ける。

日本の大学進学率は世界と比較すると低い?

平成28(2016)年度学校基本調査によると、日本の大学(学部)進学率(現役)はOECDの平均を下回る。理系だと大学院を出るのが標準となっている世界と比べて、出遅れ感はある。

参照:平成28(2016)年度学校基本調査

しかし隂山先生は、「日本では専門学校が多いので、大学に進学しなくても、専門学校で経済活動につながる技術や知識を身につける人数も多いです。それほど遅れているわけではない」と話す。

アンケート-------------

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「低い」という回答が「高い」をやや上回った。低いと感じる理由には「子どもの勉強に対する興味が低く、興味がわくような教育環境が整っていない」「幼い頃からの教育が足りない」「英語ができないから」などがあがった。

一方、高いと感じている人の理由は「ほとんどの子どもが学校へ通えているから」「教育費が高いから」「平等に教育を受けることができるから」「義務教育が徹底しているから」などだった。

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日本の教育や経済が諸外国と比べて劣っているわけではない

また2015年のPISAでは「読解力」が低下し教育界の問題となったが、「このテストはコンピュータの画面で読ませて問題を解かせるものでした。読解力ではなくて、コンピュータの活用力が低いのが問題なのです」と指摘する。

そして「ノーベル賞授賞者数は、自然科学部門では21世紀に入って日本はアメリカに次いで2位。国際技術料の収支は、1997年に輸出超過に転じてから、ずっと日本の技術を世界が買い越している状態が続いているのです。日本の教育や経済が諸外国と比べて劣っているとは言えません」と、決して日本の教育が悪いがために経済の先行きに不安が沸き起こるような状況ではないと言う。

日本の教育界と家庭の「心配性」体質

陰山氏の見解によると、日本の教育や経済が諸外国と比べて劣っているとは言えない。では、なぜこのような状況で、改革を進める必要があるのか?陰山氏は

「アメリカの一人勝ちがあまりにも強いため、さらに高いレベルで追随していかなければいけないという考えがあるのではないでしょうか。そして中国や韓国が相当アグレッシブに教育政策を打ってきているので、日本も改革が必要だと感じているのだと思います」と答える。

ここで隂山氏が挙げたキーワードは「心配性」だ。

「日本人は、教育については基本的に心配性であると言えます。どこかで殺人事件が起きても、隣人が殺人者になるとは思わないですよね。でもいじめ問題が新聞に載ると、自分の子どもがいじめられているのではないか、いじめの加害者になってしまうのではないかと心配してしまう」

この保護者たちの子どもの教育についての「心配性」が、教育界の空気となり、改革に走らせると言うのだ。さらに陰山氏は、「そもそも日本では、子どものことを“心配することが愛情”と錯覚をしている親が多い」とも指摘する。

アンケート--------

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心配なことがあると回答した人が約6割。心配な理由は「将来自立して生きていく力につながるような教育が受けられるのか」「子どもの集中力がない」「子どもがあまり勉強する姿を見ない」「塾に通わなければ授業が完結しない感じがする」「英語力が取得できない」などがあがった。

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VOl.02でも述べたとおり、今後は家庭環境や家庭の在り方がより教育に影響することが予測されるため、親の性格や言動も見つめ直す必要があるのかもしれない。次回は、教育に向き合う親たちの姿勢について考察する。

Vol.04へ続く

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Vol.01「学習」は、こう変わる! ~2020年大学受験大変革に備える学習法とは(後編)

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<<陰山英男>>立命館小学校校長顧問、立命館大学教育開発推進機構教授。安倍内閣の諮問機関「教育再生会議」委員を歴任。

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