「子どもが自分で掴み取る瞬間を逃さない」/元フットサル日本代表【稲葉洸太郎さん】〜インタビュー企画「叶えるちから、伝えるちから」〜

「子どもが自分で掴み取る瞬間を逃さない」/元フットサル日本代表【稲葉洸太郎さん】〜インタビュー企画「叶えるちから、伝えるちから」〜

各分野で活躍している方の子ども時代からの話を聞きながら、目標実現の原動力や自己の発信力のヒントを得るインタビュー企画「叶えるちから、伝えるちから」

今回は、元フットサル日本代表の稲葉洸太郎さんに、ご自身の子ども時代の話に加え、子どもたちへの指導やご自身の子育ての経験から、子育てや子どもの学びのヒントになるお話を聞きました。

   

 

18歳から指導に携わり、現在はフットサルの考え方や技術を広めるための活動へ。

2020年に現役を引退し、現在は指導、テレビ解説、フットサル場やスクールの経営なども行っている。子ども向けのフットサルスクールは、サッカーの入り口の部分でフットサルに触れ、どちらかに羽ばたいてほしいというコンセプトだ。

 

 ―指導自体は高校卒業と同時に恩師の勧めで母校の小学校の指導を始めたのが最初で、20年ほどやっています。小学校の恩師がすごく熱意のある先生で。ブラジルに自分で行って色々学んでそれを僕らに落とし込むような人でした。その先生が、「大学帰りにボールを蹴りに来い、自分が学んできたことを伝えろ」と指導に誘ってくれたのがきっかけです。その先生だけではなく、恩師たちとは今も指導する側として繋がっています。

 

指導に関して影響を受けた人物という意味では、かつてJリーグがなかった時代から全国を行脚してサッカー教室を開いていたセルジオ越後さんもそれにあたるという。フットサルの市場がまだ大きくなりきっていないと感じる一方で、イニエスタやネイマール、ロナウジーニョなどフットサル出身のスター選手も多いことを挙げ、サッカーで活かせるフットサルの考え方や技術を広めている現在の彼の活動とリンクする部分がある。

   

 

強みは「好き」でいつづけられたこと。「好き」がなければ「悔しい」も生まれなかった。

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幼稚園のサッカークラブから、テレビで見た高校サッカーをきっかけに、本人の強い希望で暁星小学校に入学。両親はサッカーに対して口を出したことは一度もないという。 

 

 ―家の中でもずっとボールを蹴ってるような子どもでした。家中ドリブルをしながら移動したり、弟や友達とPK戦をしたり。家の中のものを壊したりもしましたけど、親に「やめなさい」とは言われたことはなかったです。「じゃあ、考えてやってね」という温度感。どこに行くのもボールを持っているのが当たり前。そうやってどれだけ自分で練習できるかというのが結局一番重要だったりするので、親にはとても良いかたちで見守ってもらったと思います。

 

すべてに集中力が高いというよりは、好きなことならずっとやっていられた子ども時代。逆に一時期習っていたピアノはそこまで好きじゃなく、全く集中できなかったとか。

 

 ―とにかく好きだったんです。サッカーが。好きという根底がないと楽しくないのはもちろんですが、それこそ負けても悔しくないし。日々のちょっとしたリフティング競争とかに負けることすらいちいち悔しくて。そのうち、チームの選抜を目指す、とか、試合に勝つとか、他のチームのうまい子よりもっとうまくなりたい!とか、小さな目標がたくさんできて、無数にあるハードルを繰り返し乗り越えていくことで大きな目標にたどり着いた感じです。 

  

 

子どもが前向きになるタイミングを逃さない。

 「好きなら伸びる」と聞くと、子どもになにか得意なことや好きなことを見つけてほしいと願うのが親というもの。その思いのあまり、たくさんの習い事をやらせてみたりして失敗するケースもよく聞く話。 

 

 強要するのではなく、一緒に考えるのが良いと思います。親が見つけてきた習い事などに「とりあえずこの習いごとやって!」と行かせるのではなく、もし好きなことが見つけられていないなら、何か好きなことがある素晴らしさ、友達ができるよ、とか、毎日楽しくなるよとか、そんな会話から始めたらどうでしょうか。『一緒に探そうか』というスタンスが大切なんだと思います。そうすれば、子どもが自分で興味を掴み取ることができるんじゃないでしょうか。

 

自身も5歳の男女の双子の父親として、子どもが興味を持っていることやその度合については日々注目している最中。そこではあえて、「教えない」ということを意識しているそう。

 

 最近、息子が僕が解説を担当しているFリーグのテレビを見るようになって、自分で作戦ボードをひっぱり出して試合を解説してるんです。きっと「好き」を見つけている最中だと思い、聞くことに徹しました。そんな感じで、陰ながら「教えないキャンペーン」というのをやってます。僕がいろいろ教えるのは簡単ですが、それじゃ自分で掴み取ったことにならない。例えば、練習したいと言われたら、もちろん一緒にやりますが、強要はしないようにしています。

時には、子どもに「コーチ役をやって!」と言ってみる。すると自分で頭を悩ませたりしながら練習メニューを考えて、お手本をやって、楽しみ方を工夫するんですね。そうやって自分で見つけた楽しさを重ねてもっと好きになってもらいという気持ちでいます。

  

 

「答えは教えない」上手く指導するテクニックとは?

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「答えを教えない」ということは、子どもたちを指導する上でも大切にしていること。自分の仕事はあくまで方法の引き出しを与えることで、子どもたちに戸惑いながらでも「自分で解決できる」ということを体感してもらいたいのだと言う。 

 

 練習の中では、コーチの僕がわざと間違ってみせる、という手法もよく使います。自分で判断することに慣れてないと、誤った僕の行動をただボーッと見てしまうんですが、違うと自分で気づけた子は「コーチ、今の違うじゃん!」と突っ込みますよね。そういうふうに子どもに判断させる瞬間を作るように心がけています。

練習メニューの中にも沢山考える要素をいれたりして、子ども達が気づいた瞬間、チャレンジした瞬間、何かがはじめて出来た瞬間にはしっかりと褒めてあげるということも大切にしています。子どもの中に今までなかった判断基準、価値観が生まれた瞬間なので、それが大人や熟練者にとっては当たり前なことでも、子供にとっては成長の瞬間なのでしっかり褒めることもとても大事ですね。

 

また、いきなりグンと上達する時期というのがそれぞれの子にあり、例えば、それまでなんとなく練習をこなしていた子が、急にできないことを悔しがったり、ちょっと練習に対して前のめりになったりしているときは、自分で掴みにいっている瞬間なので、上達のチャンスだという。そこで、できるようになったことをきちんと褒めるなどのケアをすることで、子どもが自分で掴んだという成功体験をさらなるモチベーションに変えることができる。

    

 

意図をしっかりと伝える子どもたちとのコミュニケーション

早くに父親を亡くした経験から、サポートしてくれる周りへの感謝の気持ちも人一倍身に染み付いている。挨拶の指導などひとつとっても、ただ「しなさい」ではなく、その意味を伝えるようにしている。 

 

 ―最近だとサッカー漫画の「アオアシ」(小林 有吾/小学館)でも母親からの手紙というかたちで描写がありましたが、プレイヤーを支えている誰かが必ずいるんですよね。家族であり、学校であり、地域の人だったり。そういう人たちにきちんと応援してもらえる存在になろう、という話もよくします。技術指導はもちろん、これまでの自分の経験ひとつひとつをしっかりと次の世代に繋ぎながら、フットサルの普及、フットサルを通じたサッカーの普及に務めたいです。

 

   

稲葉洸太郎さん プロフィール

◎日本サッカー協会(JFA)フットサル普及担当コーチ◎東京ユナイテッド・ 暁星サッカー部テクニカルコーチ◎PANTANAL /anelfut/POTENCIA プロデューサー

元フットサル日本代表。

W杯に2回出場し、日本人のW杯通算最多得点の記録も持つ。

2022年に現役を引退。以後フットサルの普及活動を中心に活躍中。

  

 

 

 

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